トップページ帛紗について

atsumiさんデザインによる、
京都の絹で紡ぐ一生ものの帛紗ができるまで

京都の絹が紡ぐ、一生ものの帛紗

2021年、おかげさまで糸六は創業150周年を迎えることができました。
この年を記念して、より多くの皆さまに糸仕事を楽しんでいただけるものづくりをご提案したいと考え、生まれたのが、正絹の丹後ちりめん生地に糸六の絹糸で刺繍を楽しんでいただき、その方だけの一生ものの帛紗に仕上げるプランです。
帛紗の素材は、糸六と同じく京都に長年息づき、伝統産業としても広く知られる正絹の丹後ちりめん。
そして、幅広い世代の女性から高い支持を得ている刺繍作家atsumiさんに、帛紗を使う皆さんが自ら絹糸を選び、色彩を楽しみながらゆっくりと刺繍をして、お一人お一人が一生持ち続けたいと思えるような作品に仕上がるデザインを考えていただくことになりました。

正絹丹後ちりめんと絹糸の出会い

しぼが美しいことで知られる正絹の丹後ちりめん地に、艶のある糸六の絹糸で立体的に描かれる刺繍。
そんな理想を思い描きながら、上質な祝い帛紗づくりはスタートしました。
女将の今井登美子が今回の帛紗づくりの大切なパートナーとして希望したのは、上質なものづくりの伝統で知られる丹後与謝野町にあるちりめん織の老舗、山藤(やまとう)さんです。
こうして糸六の人々は丹後・与謝野町を訪ねることになりました。
京都府の日本海側、日本三景に数えられる景勝地である天橋立の程近く、上質な正絹丹後ちりめんの産地として知られる与謝野町にある山藤(山藤織物工場)さんは1833年創業。
「ふろしきや帛紗を使ってくださる方のお気持ちを大切に10年後、20年後を見据えながらのものづくりをしている」とおっしゃる老舗です。

現地では、まず工場を見学させていただきました。そこには使い込まれた数多くの機械が並んでいましたが、中でも目を引いたのは「八丁撚糸(はっちょうねんし)機」と呼ばれる機械。

この「八丁撚糸機」は山藤さん自慢の木製の撚糸機で、120年もの間、糸によりをかけてちりめんの特徴である凹凸「シボ」をつくるために重要な役割を担ってきた機械です。今では丹後の工場の中でもほんの数軒しか持っていない貴重なもの。社長の山添憲一さん、「山藤のちりめんを支える一番の役者、世界遺産級の大切な機械だ」とおっしゃいます。
そして工場の中の数々の希少な機械を支えているのは、今も職人さんたちの目や手の感覚によるとてもアナログな手仕事によるメンテナンスなのだそうです。愛情をかけて機械と語り合いながら、長く上質なものづくりを続けている山藤さんの真摯な姿勢を垣間見た思いがしました。
※ 工場内は事前に連絡をしておけば見学させていただくことも出来ます。

最高の帛紗を目指して

「今回の企画で作られる帛紗には、今はもう珍しい表地・裏地が両面シルクの贅沢なものをご提案しました。やはりシルクにはシルクを合わせるべきだと、私は日頃から思っているんです。シルク×シルクの帛紗は、1ランク上の女性を演出するとても良い小道具だと思うのです」、そうおっしゃるのは山藤取締役の山添明子さんです。
「今はもう見られなくなった白ちりめんの着物ですが、かつては嫁入り道具として美しい発色と光沢を放つとても貴重なものでした。その価値ある正絹の丹後ちりめんを自分の手刺繍で彩って、他にはない美しい帛紗に仕上げる喜びをぜひ味わっていただきたい。そのお手伝いを喜んでさせていただきたいと思っています」と明子さん。
作り手としての自負とお客様への愛情あるお気持ちは、この企画を立ち上げ、丹波を訪れた糸六の人々の思いにも重なります。
「山藤が目指すものは、大切にされる価値あるものを作ること」。
この言葉には、伝統を守り価値を高め続けようと努力する老舗の思いが込められていて、それは糸六が大切に守り続けてきた心にも通じていると感じました。

糸六の絹糸と山藤さんの正絹ちりめんが丹後・与謝野町で出会い、今回この素敵な出会いから誕生する帛紗も、シルク×シルクの上質なものになりました。
その素晴らしい品質に是非ご期待ください。

帛紗のデザインに込めた思い atsumi

私は特別きものに詳しいわけではないのですが、正絹の丹後ちりめんのことは多少なりとも知っていました。でも、実際に素材を届けていただいて、手にした時に感じた、軽さ、ふわっとした柔らかさ、そして光沢がとても新鮮な印象だったんです。
ただ正直に言うと、絹の糸も正絹ちりめんもふんわりと柔らかい素材なので、刺繍をするときの力加減が難しいなと感じました。力を入れ過ぎれば生地も糸もつってしまいますから。
私の普段のお仕事では、気軽に取り組めるやさしい刺繍、そして素材であることが重視されます。でも、今回は私にとっても初めての経験。せっかく日本に生まれ育ったのですから、やりやすく簡単なだけじゃないものにチャレンジしてみようと。私にとっても、刺繍に取り組む方たちにとっても、日本の良いもの、上質なものに触れること、そこに違いがあることを知ることは、とても価値のあることだと思うので。
糸六さんがオリジナルの商品に帛紗を選らび、私にデザインをオーダーしてくださったことは、とっても貴重な経験になりました。私自身、普段は祝儀・不祝儀に兼用できるごくごくシンプルな既成品を使ってきました。それで事足りるわけです。では、愛着を持って女性が一生使い続けられる、そして祝いの場に相応しい帛紗とはどんなものなのか…。
具体的には、帛紗の内側にも色を施したいと思い、裏面には銀鼠色の絹羽二重を選びました。広げた時も、畳んだ時も素敵で、年齢を問わず持てるということを重視しました。
細部までこだわり、柔らかくて伸び縮みするちりめんと絹糸という繊細で高級感のある素材の組み合わせに配慮してデザインを進めました。とても悩んで行き着いたのは、柔らかい手描きの線が生きる花々のデザインでした。もしも、ほんの少ししか刺繍をしなかったとしても、帛紗に仕立てたとき、可愛らしい仕上がりになることを思い描きました。
生地は3色選んでみました。それぞれの色の個性をお楽しみください。
刺繍を全て完成できなくても、あえて一部分しか刺さなくても、刺繍の楽しさや仕上がりへの期待感が味わえる。美しい帛紗に、ざっくりと色を足していくようなイメージのデザインです。刺繍が完成する前の段階から、しっかりと魅力的なデザインを作りあげるのが私の役目。これまでにないものになったと思っています。